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 化学物質名  4−ニトロクロルベンセン−2−スルホン酸ナトリウム

担当機関名 福岡県衛生公害センター

 
 (分析手法要旨)
  本分析法は、イオン交換樹脂(Amberlyst A−26)を用いて吸着濃縮し、塩酸メタノール混合液で溶離させ、溶出液を蒸発乾固した後、N,N−ジメチルホルムアミドと塩化チオニルを用いてスルホン酸基をスルホニルクロライドに変え、FID付ガスクロマトグラフで定量する方法である。定量範囲は、0.02〜0.2mgで繰り返しの標準偏差パーセントは1.0〜7.0である。

分 析 法
〔分析法試料の前処理〕
 (水質試料)  試料水の採取は1.0Lとし、これをそのまま試料処理液とする。
 (底質試料)  200mLステンレス製遠沈管に底質50gをとり、純水100mLを加え振とう機で約30分間激しく振り混ぜた後、7000rpmで20分間遠心分離する。固層を分離しこれに純水50mLを加えて抽出し、遠心分離を行い固層と液層を分離する。上澄液は合わせ、No.5Bのろ紙でろ過する。このろ液を試料処理液とする。

〔試料液の調製〕
  Amberlyst A−26を高さ8cmに充填したクロマトカラムに試料処理液を流下速度4mL/分(約10滴/14秒)で流下する。精製水100mL、混合溶媒(純水:メタノール=2:3)100mLでカラムを洗浄後、溶離液(濃塩酸:メタノール=2:3)200mLを滴下速度2mL/分(約1滴/1秒)で流下させる。流出液は300mLナス型フラスコに受ける。ロータリーエバポレーターを用いて流出液を蒸発乾固した後、ジメチルホルムアミド0.5mL、塩化チオニル20mLを添加し、ジャ管コンデンサーを装着して80〜90℃水浴中で1時間加熱還流する。過剰の塩化チオニルはロータリーエバポレーターを用いて除去した後、反応生成物は酢酸エチル100mLに溶解する。この液をNo.5Bのろ紙でろ過し、ろ液は5%塩化カリウム水溶液50mLで洗液のpHが3〜4になるまで洗浄した後、無水硫酸ナトリウム10gを充填したクロマトカラムに通して脱水し、KD濃縮器で5mLに濃縮する。この液をガスクロマトグラフの試験液とする。

〔標準液・空試験液の調製〕
  4−ニトロクロルベンゼン−2−スルホン酸ナトリウム標準液(1.0mg/mL):日本化薬製の粗製品(純度77%)を、2N塩化ナトリウム溶液から2回再結晶して精製したもの100mgを、純水に溶解して正確に100mLとする。

〔測定〕
 (ガスクロマトグラフ条件)
  検出器    :水素炎イオン化検出器(FID)
  充填剤    :2% Silicone OV−17、Chromosorb W、AW、DMCS
60〜80mesh
  カラム    :2mm×1m ガラスカラム
  カラム温度  :180℃
  検出器温度  :200℃
  キャリアーガス:N2 1.0kg/cm2
  試験液注入量 :5μL

 (検量線)
  4−ニトロクロルベンゼン−2−スルホニルクロライドの標準品が得られなかったが、検討の結果、スルホニルクロライド化の反応率は一定であると考えられたので(*)、4−ニトロクロルベンゼン−2−スルホン酸ナトリウム標準溶液から、50、100、150、250、500μgを正確にとり、各々をスルホニルクロライド化して10、20、30、50、100ppm標準検液を調製し5μLをガスクロマトグラフに注入してそのピーク高より作成する。
 *:解説3−(1)参照

 (計算)
  検量線を用いて試験液のピーク高から、その濃度を読みとり、試験液の量(a mL)及び試料採取量(b mL  or  g)から次式により試料中濃度を算出する。
 
〔データ表示、定量限界〕
  水質: 0.02μg/mL
  底質: 0.4 μg/g
試 薬・器 具
 (試薬)
  メチルアルコール、酢酸エチル、無水硫酸ナトリウム:残留農薬試験用
  塩酸、塩化カリウム、塩化チオニル、N,N−ジメチルホルムアミド:試薬特級
  4−ニトロクロルベンゼン−2−スルホン酸ナトリウム:日本化薬製の粗製品(純度77%)を2N塩化ナトリウム溶液から2回再結晶して精製したもの。
  Amberlyst A−26:樹脂量の10倍量の2N−NaOHと2N−HClを用いて、常法に従ってコンディショニングを行いCl型とした後、アセトンとメタノールで着色が認められなくなるまで洗浄する。更に、ソックスレー抽出器でメタノール抽出をメタノールに着色が認められなくなるまで行う(約24時間)。用事、0.1N NaOH 30mLでOH型に変換して用いる。

 (用具)
  ナス型フラスコ(300mL)、ジャ管コンデンサー、分液ロート(300mL、1L)、ロート、クロマトカラム(10×30mm)、遠沈管(200mL、ステンレス製)、KD濃縮器、水浴、ロータリーエバポレーター、振とう機、FID付ガスクロマトグラフ、遠心分離機

〔注解〕
1) 本分析法は、4−ニトロクロルベンゼン−2−スルホン酸ナトリウムを20μg以上含む試料に対して適用し得る。
2) イオン交換樹脂Amberlyst A−26の充填高さは8〜10cmの範囲に保つこと。
3) イオン交換樹脂に試料を通して目的成分を吸着濃縮後、溶離液で溶離する際、気泡が生じることがあるが、その気泡は必ず除くこと。
4) イオン交換樹脂に試料を通す流下速度及び溶離液の流下速度は厳守すること。
5) 溶出液の蒸発乾固の際、突沸が起き易いため、低温(20〜30℃)から減圧し始め70〜90℃まで徐々に昇温すること。

解  説
【分析法】
1.本法の原理
 1−1 本法における主反応式





 1−2 水質試料
 
 1−3 底質試料
 
2.他の分析法の考察
  本法においてはイオン交換樹脂としてAmberlyst A−26を用いたが、比較的諸種の有機物を吸脱着し易いことが観察された。従って、妨害物質を含む試料においては、Amberlite IR−45を用いると良い1)。

3.分析法検討基礎実験の結果
(1) 4−ニトロクロルベンゼン−2−スルホン酸ナトリウム10、20、50、100、500、1000μgに対して、塩化チオニルを用いてスルホニルクロライド化しガスクロマトグラフに注入した結果、得られた各々のピーク高は良好な直線性を示した。従って、その反応率は1000μg以下において一定であると考えられる1)。また、反応生成物である4−ニトロクロルベンゼン−2−スルホニルクロライドは、GC−MSにより確認した。そのマススペクトルは次図の通りである。
(2) 精製水、河川水(B類型)及び底質(含水率70.5%、強熱減量12.0%)の試料を用いて回収実験を行った結果は、次表に示す通りである。
添加濃度項目       試料 100μg/1000mL 1000μg/1000mL 500μg/50g湿泥
精製水 河川水 精製水 河川水 底 質
回収率(%) ±σ 85.7±6.0 88.3±2.9 97.8±1.3 91.6±2.8 81.3±2.3
C.V. (%) 7.0 3.3 1.3 3.1 2.8

(3) イオン交換樹脂はAmberlyst A−26 (強塩酸性)の他に、Amberlite IR−45 (弱塩基性)についても検討した。その結果、Amberlyst A−26の方が5〜10%以上高い回収率を示した。
(4) 溶離液としてアンモニア−メタノール系についても検討したが、塩酸−メタノール系の方が良好な回収率を示した。
(5) 4−ニトロクロルベンゼン−2−スルホン酸ナトリウム水溶液及び反応生成物である4−ニトロクロルベンゼン−2−スルホニルクロライドの酢酸エチル溶液は6ヵ月以上安定である。

4.環境試料分析
 操作上の注意
1) イオン交換樹脂に目的物質を吸着濃縮後、塩酸−メタノール混合溶離液で溶離する際、気泡が生じることがあるが、この気泡は完全に除去する必要がある。

 実測データ
  御笠川落合橋下河川水(類型指定:B):検出せず
  矢部川高田堰下流底質(類型指定:C):検出せず (別紙1参照)

 妨害物質
  洗剤(特にABS等)の妨害が考えられる。上記の河川水はABS汚染の顕著な試料であったが、その妨害は認められなかった。

5.評価
本分析技術の評価 上記のように良好な回収率を示しており、妨害物質についても一般の河川では問題ないと考えられる。イオン交換樹脂への吸着溶離の際の脱泡と流下速度を厳守すれば、充分使用できる。
定量限界 ガスクロマトグラフのワンパス投入限界は20ng、適正投入量は150ngである。
有効数字 2桁
試料の量 水質試料の場合、200〜1000mLで検討したが、2000〜3000mLに増すことは可能である1)。底質試料の場合、30〜50g (湿泥)

6.確認試験
  FID付ガスクロマトグラフでピークを検出した試験液は、GC−MSによりマススペクトルを測定して確認する。
〔文献〕
1) 深町和美、武藤博昭:「化学物質環境調査分析方法報告書」 pp.144〜146、昭和53年3月、日本環境協会。
2) J.J.Kirkland : Anal. Chem., 32. 1388. (1960)

福岡県衛生公害センター 柳川正男  

 (別紙1)




























4−ニトロクロルベンゼン−2−スルホン酸ナトリウム

 
 (分析手法要旨)
  本分析法は、イオン交換樹脂(Amberlite IR−45)を用いて吸着濃縮し、塩酸−メタノール混合液で溶離させ、溶離液を蒸発乾固した後、純水に溶解し、紫外分光光度計検出器付高速液体クロマトグラフで定量する方法である。定量範囲は0.01〜0.15mgで繰り返し標準偏差パーセントは6〜11である。

分 析 法
〔分析法試料の前処理〕
(水質試料) 試料水の採取は1.0Lとしこれをそのまま試料処理液とする。
(底質試料) 200mL遠沈管に底質25gをとり、純水100mLを加え振とう機で約30分間激しく振りまぜた後、7000rpmで20分間遠心分離する。固層を分離し、これに純水50mLを加えて抽出し、遠心分離を行い固層と液層とを分離する。この抽出操作をもう一回計3回行う。水層を合わせNo.5Aのろ紙でろ過する。ろ液は300mL滴下ロートに集め試料処理液とする。

〔試料液の調製〕
  Amberlite IR−45を高さ8cmに充填したクロマトカラムに試料処理液を流下速度5mL/分(約10滴/14秒)で流下する。精製水100mL、混合溶媒(純水:メタノール=1:3)100mLでカラムを洗浄後、溶離液(濃塩酸:メタノール=1:3)200mLを流下速度1滴/1秒で流下させる。
  流出液は300mLナス型フラスコに入れ、ロータリーエバポレーターを用いて蒸発乾固した後1)、純水2mLを加えて内容物を溶解する。この液を高速液体クロマトグラフィーの試験液とする。

〔標準液・空試料液の調製〕
  4−ニトロクロルベンゼン−2−スルホン酸ナトリウム標準液(1.0mg NCBS−Na/mL):4−ニトロクロルベンゼン−2−スルホン酸ナトリウム100mgを純水に溶解して100mLとする。

〔測定〕
 (高速液体クロマトグラフィー条件)
  検出器   :紫外分光光度計検出器(254nm)
  カラム   :島津Zipax−SAX、ステンレス、2.1φ×500mm
  移動相   :0.005M NaClO4+40%イソプロピルアルコール
  流 速   :0.43mL/min (55kg/cm2)
  試験液注入量:7μL

 (検量線)
  4−ニトロクロルベンゼン−2−スルホン酸ナトリウム標準液(1.0mg/mL)を純水で希釈して1.0〜30.0μg/mLの溶液を調製し、その7μLを高速液体クロマトグラフに注入して、そのピーク高により作成する。

 (計算)
  検量線を用いて試験液のピーク高から、その濃度を読みとり、試験液の量(a mL)及び試料採取量(b g  or  mL)から次式によって試料中濃度を算出する。
 
〔データ表示、定量限界〕
  水質: 0.003μg/mL ― 試料水3L使用
  底質: 0.4  μg/g (湿泥) ― 底質25g使用

試 薬・試 液
 (試薬)
  メチルアルコール:残留農薬試験用
  塩酸:35%精密分析用
  イソプロピルアルコール:液体クロマト用
  4−ニトロクロルベンゼン−2−スルホン酸ナトリウム
  Amberlite IR−45:水洗後、2M水酸化ナトリウム、4M塩酸でコンディショニングを行い塩素型とした後、メタノールで着色が認められなくなるまで洗浄する。次にソックスレー抽出器を用い、メタノール抽出を着色が認められなくなるまで行う(約48時間)。
                     用事に1M水酸化ナトリウム30mLを用い水酸基型にして使用する。

 (用具)
  ナス型フラスコ(300mL)、滴下ロート(1L、300mL)、クロマトガラスカラム(φ10×300mm)、ロート、遠沈管(200mL)、ロータリーエバポレーター、振とう機、遠心分離機、高速液体クロマトグラフ

【注解】
1) 本分析法は、4−ニトロクロルベンゼン−2−スルホン酸ナトリウムを5μg以上含む試料に適用し得る。
2) イオン交換樹脂の充填高さは8〜10cmの範囲に保つこと。
3) 溶離液を蒸発乾固する際、突沸する恐れがあるため、約40℃から徐々に溶離液を蒸発してゆき最後は約90℃で乾固させる。
4) イオン交換樹脂から目的成分を溶離する際、気泡を生じることがあるので、その気泡は必ず除くこと。
5) イオン交換樹脂に通す試料処理液の流下速度及び溶離液の流下速度は厳守すること。

解  説
【分析法】
1.本法の原理
 1−1 本法における主反応
    なし

 1−2 水質試料
 
 1−3 底質試料
 

2.他の分析法の考察
    なし

3.分析検討基礎実験の結果
1) 河川水(B類型)及び底質(含水率70.5%、強熱減量12.0%)試料を用いて回収実験を行った結果は次表に示すとおりである。
試料項目       濃度 河 川 水 底  質
50μg/1000mL 1000μg/1000mL 50μg/25g 湿泥
回収率(%) ±σ 71.6±4.1 80.5±1.0 80.8±2.9
C.V. (%) 5.7 1.2 3.5

2) イオン交換樹脂はAmberlite IR−45(弱塩基性)の他にAmberlyst A−26(強塩基性)が使用できるが共存有機物の妨害が大きくなる傾向にあった。
3) 高速液体クロマトグラフのカラムは島津Zipax SAXの他に島津PCH(ステンレス 4.0φ×250mm)が次の条件で使用可能である。

  移動相:NaClO4 100mg/L H2O+KH2PO4 200mg/L H2O
  流 速:0.6mL/min (70kg/cm2)
  試験液注入量:20μL

4) NCBS−Na水溶液は非常に安定で3ヵ月は分解しない。

4.環境試料分析
 操作上の注意
1) 底質からの抽出溶媒は精製水のみ検討したが、アルコール、アセトン等の添加によって抽出率が向上する可能性はある。
2) SS分が高くイオン交換樹脂の目詰まりを生じるような水質試料はNo.5Aろ紙であらかじめろ過すればよい。
3) 妨害ピークがでる場合、1,2−ジクロルエタン3〜5mLを加えよく振とうし、遠心分離(1500rpm、20分)後、上澄液を注入すれば除去できることがある。

 実測データ
  御笠川落合橋下河川水(類型指定:B): 検出せず
  矢部川古賀橋底質  (類型指定:A): 検出せず

 妨害物質
1) 洗剤(特にABS)等の妨害が考えられる。上記の河川水はABS汚染の顕著な試料水であるがその妨害は認められなかった。
2) 液体クロマトグラフに注入する試験液中に多量の塩酸が残存しても254nm付近に塩素イオンの吸収は認められないので分析上問題は生じない2)。

5.評価
  本分析技術の評価:イオン交換樹脂カラムの脱泡及び流下速度を厳守すれば充分
使える。
  定量限界:高速液体クロマトグラフのワンパス投入限界は7ngであり、適正投入量は105ngである。
  有効数字:条件のよい場合3桁であるが、通常は2桁が妥当である。
  試料の量:水質試料の場合500〜3000mL
       底質試料の場合25〜50g (湿泥)

6.確認試験
  イオン交換樹脂からの流出液を蒸発乾固した後、N,N−ジメチルホルムアミドと塩化チオニルを用いてスルホニル化合物とした後、GC−MSによりマススペクトルを測定する。

〔文献〕
1) 深町和美、武藤博昭:「化学物質環境調査分析方法報告書」、昭和53年3月、日本環境協会。
2) 機器分析ハンドブック、技報堂。

福岡県衛生公害センター 深町和美、大崎眞紗子